vol.7_【現地レポ】育苗のプロに聞いた!夏場の育苗成功率を上げる三つの工夫

vol.7_【現地レポ】育苗のプロに聞いた!夏場の育苗成功率を上げる三つの工夫
これから暑くなってくると、多くの方が悩むのが「夏場の育苗」について。 近年の猛暑の中でも失敗しないコツを知りたい!という声をよくいただきます。 そこで、江守さんと一緒に千葉県佐倉市にある「鈴木農園」さんに取材しました。 鈴木農園さんには、サカタのタネ オンラインショップで販売している「ジフィーセブンC苗」や「セル苗」の生産を委託しています。鈴木さんの苗は、“しっかりとした苗”とレビューでも大変好評です。 鈴木農園さんは「がっちりした苗」作りのため、培養土や生産環境にとてもこだわっています。企業だからこその大きな設備もありますが、苗作りは”失敗を重ねコツをつかんでいく地道な作業“と述べる鈴木さん。 今回は皆さんへ、“育苗のプロに聞いた!夏場の成功率を上げるポイント”をご紹介します。

目次

左:江守さん 右:鈴木農園 鈴木社長

①育苗環境を整える

「まず変えるべきは”環境”だった」

ハウスを回りながら話を聞く中で、江守さんがまず感じたのは「夏場の育苗は、環境づくりが重要」ということでした。

実際、鈴木農園さんでは光と温度のコントロールを徹底しています。たとえば遮光。

黒ではなく、光をやわらかく拡散する白色系の遮光シート(50%)を使い、日中だけ閉めるなど天候に応じて細かく調整しているそうです。

「日差しを遮る」だけでなく、いかにムラなく光を当てるかがポイントだと感じました。

鈴木農園さんはハウスを覆うフィルムに「エフクリーン ナシジ」を使用しているとのことで、エフクリーン ナシジは光が乱反射するフィルムのため、鉄骨の影などの影響が出にくいそうです。

ハウス内の様子①
ハウス内の様子②

さらに、ハウス内の温度を下げるための工夫も徹底されています。天窓で熱気を逃がし、循環扇で空気を動かすことが重要とのこと。ミストを使うのも有効だと思います。空気の”流れ”をつくることが、苗の状態を大きく左右するそうです。

江守さん自身、ここで大きな気づきがありました。

「これほどの設備がそろっていなくても、風を回す、遮光する、だけでも違いが出るはず」と。

実際、業務用扇風機で風を当てるだけでも効果は期待できるとのこと。

まずは手元の環境でできる範囲から整えていくことが大切です。また、防虫ネットやハウスの高さなども含め、”温度と湿度をどう抑えるか”を意識した環境づくりが必要だと感じました。

 

👉江守さんのポイント

「遮光」

「空気(換気・循環)」

「温度対策」

環境づくりにおすすめ資材

    ②播種時

    環境づくりと並んで印象的だったのが、「播種の時点で、成功率を左右する工夫がすでにされている」という点でした。一見シンプルに見える播種作業ですが、鈴木農園さんでは細かなポイントが積み重ねられていました。

    まず培養土。鈴木農園さんでは市販の播種専用培養土を使用しているそうです。窒素分が多過ぎると徒長の原因になるため、元肥は少なめのものを使用しているそうです。「足りない分は後で足せるが、過剰は戻せない」という考え方です。さらに覆土にも工夫があります。土ではなく、ホワイトバーミキュライトを使うことで、保水とともに温度上昇も抑える狙いがあります。夏場の場合、好光性種子であっても、あえて覆土するという点も印象に残りました。

    播種
    覆土後

    また、トレー選びも重要です。黒ではなく白いセルトレーを使うことで、直射による温度上昇を抑える工夫がされています。

    そしてもうひとつ、江守さんが参考になったのが余剰生産分の倍率でした。鈴木農園さんでは、最初から余裕をもって多めに育てるために、実生苗は1.2倍、接木苗は1.4倍育てています。失敗を前提にして”リスクを吸収する設計”にしているのです。江守さん自身、この点について「失敗しないことだけを考えるのではなく、失敗しても回るようにしておく発想が大事」と感じたそうです。

     

    👉江守さんのポイント

    「土・覆土=徒長対策」

    「白トレー=温度対策」

    「多めに育てる=リスク設計」

    播種におすすめの資材

      ③水やり

      「水やりは回数より”乾き方”だった」

      水やりは、江守さんにとっても「すぐに現場で変えられる部分」として特に印象に残ったポイントでした。鈴木農園さんで基本としているのは、水やりは朝1回、夕方にはしっかり乾いている状態にすること。夜まで水分が残ると徒長しやすくなるため、時間帯の管理が非常に重要だといいます。「足りないなら回数を増やす」のではなく、一日の中で”乾くリズム”をどう作るかが大事なのだと感じたそうです。

      実際、乾きすぎたときは午後に追加することもありますが、それも15時までが目安。それ以降の水やりはリスクになると考えられています。

      さらに興味深かったのは、”均一に水をかける工夫”です。トレーの端は乾きやすいため、先に周囲から水をかけていくなど、ムラを減らす細かな配慮が徹底されていました。

      また、基本は手動での水やり。自動での水やりだけに任せず、状態を見ながら補うことで仕上がりに差が出るとのことです。

      水やりの様子①
      水やりの様子②

      👉江守さんのポイント

      「朝1回+夕方乾く=渇きの設計」

      「15時以降NG=時間管理」

      「夜には水を切らす」

      「ムラ対策+手動での水やり=仕上がり差」

      水やりにおすすめの資材

        最後に

        プロの鈴木農園さんであっても、トライアンドエラーで環境や管理方法を改善し続けられていることが印象的でした。

        そもそも夏場の育苗はプロの苗農家でも難しいので、苗を購入するという選択肢もあります。

        鈴木農園さんは取材対応や圃場、生産されている苗を見ていても、真摯(しんし)で細やかなお人柄が伝わってきました。

        鈴木農園生産の苗紹介

          江守 敦史

          1972年 兵庫県西宮市生まれ。
          いまここランド合同会社 代表
          大手出版社で約20年間のキャリアを積み、株式会社KADOKAWAでは編集長を務めあげる。
          2020年3月11日に農家の課題解決を目指す「いまここランド合同会社」を設立。

          夏場の育苗について、ご意見お待ちしております!