vol.5 上尾ニューノウカーズを訪ねて

vol.5 上尾ニューノウカーズを訪ねて

江守さんの所属する、埼玉県上尾市で活動する若手農家グループ「上尾ニューノウカーズ」。

「上尾ニューノウカーズ」とは、上尾市の認定新規就農者による農家グループです。メンバー間の情報やノウハウの共有により、切磋琢磨(せっさたくま)しながら農業生産技術と売り上げ、生産の向上を図っています。上尾市の野菜販売の催事に出品するなどの活動をされています。現在は江守さんを含む5名が所属し、今後もメンバーの輪を広げる予定です。

その中から今回は小野寺武史さん(かしの木ファーム)、湯川昭祐さん(七彩(なないろ)ファーム)というそれぞれ異なる農法で取り組む2人を、江守さんにご案内いただきました。

目次

かしの木ファーム:小野寺武史さん

師匠の跡を継ぎ、2020年ごろから自然栽培専門で野菜を販売する「かしの木ファーム」小野寺さんは、5反の畑と1反のブルーベリー畑を、農薬も肥料も一切使わずに管理しています。その時々に収穫できたものを販売するスタイルながら、感度の高いお客様の口コミによって「安心でおいしい」と評判が広がり、多くのファンを獲得しています。

一方で、自然栽培だからこそ天候や病気の影響を受けやすく、安定供給の面で悩むこともあるといいます。

栽培している品目について

「自然栽培に向いているものは、全体的に根菜が強いです。葉物も育てていますが、まずは基本のラインアップを抑えて、そこから少しずつ広げています。バラエティーを増やしていかないと、待っているお客様に届けられなくなってしまうので。」

根菜はダイコン、カブ、ニンジン、イモ類はサツマイモ、ジャガイモ、葉物はコマツナ、ミズナ、ルッコラ、わさび菜、ケールを栽培している小野寺さん。

畑によって「葉物が育つ畑」「根菜が強い畑」など相性が異なるため、空いている畑で試しながら自分なりのデータを蓄積しているそうです。

かしの木ファームでとれた作物
自然栽培の畑

補足:小野寺さんは自信の畑では農薬・肥料を一切使わない一方、地域内の福祉作業所を手伝う際には施設の方法に合わせて農薬を使用。その効果を知った上で使わない選択をしていることに意味があると語ります。

 

品種選びを意識するようになった背景

これまで品目ごとに「この季節だからニンジンをまく」といった計画を立てており、ホームセンターのラインアップからタネを買うことが多かった小野寺さん。しかし近年の気候変動によって秋まきが特に難しくなり、まき時期や耐暑性など”品種特性”をより重視するようになりました。

「2026年の目標は、タネ(品種)をしっかり選ぶことです。今までは収穫できているからいいやと思っていましたが、きちんと試してインプットすれば、秋まきでももっと安定して育てられるはずだと思うようになりました。」

昨冬行われた「掛川総合研究センター野菜品種見学会」でも多くの質問をし、自分の農法では生育が遅いため「秋まきで育てられるのは早生品種が中心なのでは」と整理できたと話します。

 

試してみたい品種

見学会で特に興味を持った品種が、ニンジン「濱美人」。早生性よりも”太りがよい”点に魅力を感じたそうです。

「早生品種の方がいいのか、太りのよさを重視するのか、従来の『ベータ―リッチ』と比較してみたいと思いました。比較対象としては、初期生育がよい『ベーター536』が合いそうだと感じています。」

 

自然栽培の難しさとファンの存在

自然栽培特有の苦労も多いものの、経験と研究を重ねた栽培によって、レストランやカフェ、一般の個人客など多くの”固定ファン”から支持されている「かしの木ファーム」。

ニーズが高いからこそ、安定供給のためにも品種選びに力をいれていきたいと語る小野寺さん。今後もサカタのタネでは、自然栽培を含むさまざまな農家のニーズに対応できる品種を提案します。

かしの木ファームさんにおすすめ 太りがよい品種

    七彩ファーム:湯川昭祐さん

    有機肥料のみを使用し、無農薬栽培に挑戦する「七彩(なないろ)ファーム」の湯川さん。家庭菜園で”自分で作る楽しさ”を感じたことをきっかけに、JAの「明日の農業担い手塾」を経て2024年5月に認定新規就農者となりました。

    作業場を自ら建て、電力はソーラーパネルで自給。約16反の広大な畑をご夫婦で切り盛りし、夏は果菜類をはじめ多品目栽培を行ってきましたが、ある出来事をきっかけに”ネギの通年栽培”に挑戦するようになったといいます。

    ネギを通年販売したい理由

    湯川さんは、秋冬ネギである「夏扇4号」に加え、「初夏扇2号」も栽培しています。トウ立ちの遅さが魅力で、2~3月に収穫できるように計画しているとのことです。

    「一年中収穫できたら理想なので、区画ごとに品種を変えて収穫時期をずらせるように考えています。どの時期にどの品種を播種(はしゅ)するのが最適かを常に試行錯誤しています。」

    通年販売への挑戦の背景には、”2~3月に販売できるものがなくなってしまった”という経験がありました。

    「ネギをとり終えたのが1月で、2月3月に出荷するものがなくて困ったんです。葉物を作っていなかったので・・・。夏ネギは直売所では出している人が少なく、ライバルも少ない。ならば、さらに流通量が少ない”3月以降にもとれるネギ”をやりたいと思いました。」

    湯川さんのネギ畑
    袋詰め前のネギ

    無農薬栽培での苦労とこだわり

    無農薬のネギは市場にはほとんど出回っていません。湯川さんは化学肥料を使わず、除草剤も使わないため広大な畑の草取りは手作業です。

    「見学会で、雑草を”種が落ちる前に手で摘み取る”と聞いて、やっぱり地道にやるしかないのだと思いました。」

    また、生育を左右する肥料については「有機質肥料がもっと選べるとうれしい」という要望も話してくれました。

     

    見学会で得た学びと試したい品種

    見学会は湯川さんにとって、多くの学びや気付きのある時間になったといいます。

    「ニンジンとネギに興味があるので、特にそこを重点的に質問しました。試供品の『ボカシ肥料』も気になったので使ってみたいです。」

    ニンジンでは、まず太りがいいと聞いて関心を持った「べーター536」を試してみたいとのこと。また、味が一番好みだという「ベータ―リッチ」も引き続き栽培する予定ですが、細長くなりやすい特性をどう改善していくかにも興味を持っているそうです。

    一方ネギでは、通年出荷を目指す湯川さんにとって有力な候補として「冬扇シオン」が印象に残ったと話してくれました。年間を通して安定して収穫できる体制づくりに役立つのではないかと期待しています。

     

    出荷と今度の展望

    湯川さんは毎日出荷することを目標に、直売所、スーパー、学校給食など幅広い販路に出荷しています。

    「一年を通して安定してネギを届けられるように、品種選びも工夫していきたい」と語る湯川さん。

    サカタのタネとしても、通年販売を目指す農家さんに役立つノウハウや品種紹介を今後も発信します。

    七彩ファームさんにおすすめ ネギのリレー栽培品種

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      最後に

      小野寺さん、湯川さんの共通点は”より良い栽培方法を探り続ける姿勢”でした。気候や地域ニーズに合わせて柔軟に品種を選び、安定した収穫を目指す取り組みは、これからの農業にとって重要なヒントとなります。

      サカタのタネは今後も、こうした挑戦を続ける農家の皆さまに寄り添い、多様な品種や技術情報をお届けします。

      江守 敦史

      1972年 兵庫県西宮市生まれ。
      いまここランド合同会社 代表
      大手出版社で約20年間のキャリアを積み、株式会社KADOKAWAでは編集長を務めあげる。
      2020年3月11日に農家の課題解決を目指す「いまここランド合同会社」を設立。